4月
いつまでも変わらない君と僕の関係
4月1日、満開の桜の下。
慣れないスーツを着て、俺は幼馴染の千陽と入社式に向かっていた。
小学生の頃から、千陽は俺の手を引いてこう言うんだ。
「ほら、早く行くよっ」
今日も千陽は俺の手を握る。そのあと楽しそうに笑うのも、桜の花びらが髪についているのも、昔から変わらない光景で。
俺たちの関係はいつまでも変わらない。
そう思っていたのに、千陽に握られた手が、どうしてこんなに熱いんだろう。
「まさか、就職先まで一緒だとは思わなかったな~」
「…どこまでついてくる気だよ」
「そっちがついて来たんでしょ」
志望する就職先が同じだったのはたまたまだ。
でもどこかで漠然と、千陽の隣を歩く自分を想像していた。
リボンが、風で揺れる。
あの頃から変わらない、俺の気持ちみたいに。
「それ、なんでずっとつけてるの?」
千陽がこのリボンをずっとつけてるのは、
もしかしたら俺が似合うって言ったから__なんてことを考えている。
「…これしかなかったの!」
そう顔を背ける千陽は耳まで真っ赤で。
__期待しても、いいのか。
あの頃から変わらない、俺たちの関係。
この春、一歩前に進めよう。
4月1日。ビルと桜に囲まれたこの街に、私と幼なじみの颯真は就職する。
「ほら、早く行くよっ」
小学生の頃と同じように、今日も私は颯真の手を引いて歩き出す。
私たちの関係はいつまでも変わらない。小さかった颯真の手が、大きく感じたあの日から。
小学生の頃。内気でよくからかわれていた颯真を、私が守ってあげていた。
でもそんな私に、クラスの子が言ったんだ。
「千陽って男みたい!」
ずきんと心が痛んだ。何か言い返そう、そう口を開いたとき__
「そんなことない!」
「颯真くん?」
「千陽ちゃんはリボンがとっても似合う、優しい女の子だよ!」
内気な颯真が私を守ってくれたあの日。
あの日からもっとこの手に触れたくなって、繋ぐのに勇気がいるようになった。
それなのに、颯真は私の気持ちなんて全く気付かずに笑いかけてくる。
リボンが、風で揺れる。
あの頃から変わらない、私の気持ちみたいに。
「それ、なんでずっとつけてるの?」
顔が、熱い。だってこれは、
「…これしかなかったの!」
私の気持ちに気付いて欲しくて、ずっとつけてるんだから。
あの頃から変わらない、私たちの関係。
この春、一歩前に進めよう。