4月
親友ができた日

ガタンゴトンガタンゴトン…

ジョバンニとカンパネルラを乗せて、広大な宇宙を進む銀河鉄道。
ひとたび本を開けば、心地いい電車の音と、二人の絆を感じるんだ。

「……こんな友達がいたらなぁ。」

今日から新学期。
新しい席で私はいつもと同じように一人で本を読んでいた。

早く話しかけないとどんどん馴染めなくなっちゃう…。
そんなこと分かってはいるんだけど。

「みてみて！新しいネイル！」
「あっ！それ新作じゃん！いいなぁ〜」
「私も狙ってた！帰りに見に行こうよ！」

みんな一年生の時からの友達なのかな？
もうグループができてる。

「はぁ……」

あの輪に入る勇気なんてないし、隅で本を読んでいれば目立たない。
寂しい時もあるけど……本の中に入っちゃえば、ひとりぼっちじゃないんだもん。

…ジョバンニとカンパネルラは、どうやって親友になったんだろう？
紙に印刷された文字を指でなぞった。
桜が舞うその時—

ふわっと香るあまい匂い。優しい、桜みたいな…

「銀鉄だ…！」
「えっ！？」

突然明るい鈴の音のような声が頭上から降ってきた。

「私も好きなの！ほら！賢治いいよね！」

顔を上げると、そこには桜のような華やかな子が笑顔で私に話しかけてる。
…確かこの子は一年生の時は隣のクラス。
いつも明るくて、友達も多くて……。

「嬉しい…！ずっと誰かと話したいと思ってたの！
まわりには読んでる子がいなくて……」

そう言いながら私の机に本を置いた彼女は、ページをパラパラとめくる。
私は突然近くなった距離に緊張して文字に目を落とした。
彼女は嬉しそうに本の一文を指差す。

「ねぇ、ここどう思う？
『気が付くとジョバンニは列車に乗っていました。目の前の席にはカンパネルラがいました』
ジョバンニとカンパネルラは、どうして銀河鉄道に乗ったのかな……」

「それは……ジョバンニがカンパネルラのことを、本当に想ってたから。
本当に大好きで、大切な親友だったから……
ふたりでいたいっていう気持ちがきっと空に通じたの。だから銀河鉄道、に……」

私はハッとして、スラスラと口から出ていた言葉を飲み込んだ。
私が本の話をしたら、みんな「へぇー」とちょっとめんどくさそうに笑うんだ。
きっと、この子も—

「やっぱりそうだよね…！私も同じこと考えてた！
こういう話ができる友達が、ずっと欲しかったの！」

夜空の星みたいに、キラキラと輝く彼女の瞳。

その表情を、私はよく知っていた。
本の世界に魅了されて、胸がわくわくしたときの顔。
そして……大好きな本の世界を、一緒に冒険できる友達を見つけたときの……

「じゃあじゃあ、ここはどう思う？」
「ここは……」

無邪気に問いかけてくる彼女に、どうしてなのか、自分でもわからないけれど。
私はこの子と……

「あの、名前—」
「あ、名前—」

「…っふふ」
「ふふっ！」

重なる笑い声が、ひとりぼっちだった私の世界を変えていく。

ジョバンニとカンパネルラのような、特別な親友になれる—
そんな予感で、胸がいっぱいだった。